成瀬映画に登場する風景

NEW 2019.6.30

『女の中にいる他人』(1966年) ⑥ 


田代(小林桂樹)が休養に出かける、福島県会津若松市にある温泉地の「芦ノ牧温泉」。
この温泉地でのロケーションについては、書籍「成瀬巳喜男の設計」(中古智/蓮實重彦 筑摩書房)
のP258-264で、中古智美術監督がいきさつを詳しく話している。成瀬監督のロケハン時の写真も掲載。

映画では田代は鎌倉に住んでいる設定なので、温泉療養であれば「箱根」「湯河原」あたりが近いのだが、
設定とはいえ鎌倉から芦ノ牧温泉に実際に行くのはかなり時間がかかっただろう。
管理者が17-18年前に一度現地へ行ったときは「東京」→(東北新幹線)「郡山」→(磐越西線)「会津若松」→(会津鉄道)「芦ノ牧温泉」
と乗り換えたが、現在でも東京から乗り換えを入れて3時間以上はかかる。
撮影時の1965-66年頃はもちろん東北新幹線はないので、鎌倉から電車で乗り継ぎして行くと6~8時間くらいはかかったのではないか。
山沿いのひなびた温泉地をロケ地にしたのは、田代の精神状況を表現したいという成瀬監督の考えがあったと前述の書籍に書かれている。
テレビドラマはわからないが、映画で芦ノ牧温泉をロケ地にしたのは本作だけではないか。他の作品を私は知らない。
管理者が芦ノ牧温泉に行った時期は真冬で雪が多く(本作ロケ地①写真参照)、散策して写真を撮影する余裕はなかった。
ただし、田代が妻・雅子(新珠三千代)にトンネル道路の中で告白する重要なシーンの撮影は、芦ノ牧温泉ではなく
奥多摩だということは、本作の助監督だった故・石田勝心監督に教えていただいた。(本作ロケ地③写真参照)

テレビドラマであれば、田代が温泉地の駅に着く、タクシーで旅館に着く、フロントでチェックインといった
説明的なショットを入れるのが普通だと思われるが、成瀬監督はそのような説明的な表現はしない。
映画では、鎌倉での田代と妻・雅子の会話(妻→気分転換に温泉でも行ってらっしゃい)の後の場面転換で
「河原に面した旅館のモノクロ写真のアップ」→「風呂場の脱衣所でそれを眺めている田代」となる。
こういう切れ味鋭い、テンポのいい<省略>場面転換は、成瀬映画の魅力の一つだとあらためて思う。
そして脱衣所にいる客の噂話で「近くの吊り橋から男が身を投げた」と聞き、吊り橋に行ってみる田代。

「吊り橋」の場所は、地図の赤丸の橋(現在は吊り橋ではない)だと思われる。画面を観る限りかなりの高さ!
グーグル地図を使用。
画面写真に映っているアロハ姿・短パンのあんちゃんは、「ウルトラマン」のイデ隊員(二瓶正也)。

   


      
   



田代が宿泊し、その後妻・雅子を呼び寄せる芦ノ牧温泉の河原に面した旅館。
旅館名は映画用に変えた可能性はあるが、これは実際のロケーションだろう。
ただし部屋の中は、照明などの関係から撮影所のセットである可能性が高い。
旅館の場所は絶対という確信は無いが、画面写真の情報から
おそらくグーグル地図の青い四角の場所(坂を降り河原に面している旅館=「不動館 小谷の湯」)だと思われる。

画面写真の坂が現在もあるのかどうか不明だが、グーグル地図のストリートビューでは見れない。
この旅館が当時のロケ場所だと仮定すると、画面写真の旅館正面前の坂道はグーグル写真に挿入した赤い→の方向になる。

  
       
  


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